与信限度額の見直し方法

適切なタイミングと判断基準を解説

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与信限度額の見直しが企業経営を守る理由

与信限度額を一度設定したら終わり、と考えていませんか?

実は、取引開始時に設定した与信限度額をそのまま放置することは、企業にとって大きなリスクとなります。ビジネス環境は日々変化し、取引先企業の経営状況も常に変動しています。大企業であっても、市場環境の急変や経営判断のミスにより、突然経営が悪化するケースは珍しくありません。与信限度額の見直しを怠ると、気づかないうちに回収不能な債権を抱え込み、自社の経営を圧迫する事態に陥る可能性があるのです。

与信限度額の見直しは、単なるリスク管理ではありません。取引先の成長に合わせて与信枠を拡大することで、ビジネスチャンスを最大化できる戦略的な手法でもあります。適切な見直しプロセスを確立することで、リスクと機会のバランスを取りながら、安定した取引関係を構築できるのです。本記事では、与信限度額を適切に見直す方法、見直しが必要なタイミング、財務状況の変化の捉え方、増減額の判断基準、そして定期的なモニタリング体制の構築まで、実践的な手法を詳しく解説します。

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与信限度額の見直しが必要な3つのタイミング


与信限度額の見直しには、「定期的な見直し」と「都度見直し」の2つのアプローチがあります。

定期的な見直し:年1回の財務分析を基本とする

与信限度額は、最低でも年に1回の定期的な見直しが必要です。見直し時期は取引先企業の決算期における決算書の開示時期が目安となります。たとえば、3月決算の取引先の場合、決算書が開示される6月頃に情報を収集し、3カ月後の9~10月頃には新たな与信限度額を決定するのが理想的です。取引先企業の数が増えるほど、見直し作業の負担も大きくなります。そのため、社内で対応期限や一定の与信見直しルールを定め、スムーズな管理体制を構築することが重要です。

特に注意が必要なのは、自社にとって該当取引が売上全体の大部分を占めている場合や、要注意と認識している取引先企業です。これらの取引先については、見直しの期限を短縮したり、見直しの回数を増やしたりすることで、管理レベルを上げる必要があります。四半期ごとの見直しや、場合によっては毎月のモニタリングも検討すべきでしょう。

都度見直し①:取引金額が増加した場合

取引金額の増加は、債権残高および貸し倒れリスクの増加を伴います。事前に決定した与信限度額を超えた取引を取引先企業から要請された場合には、与信審査や調査を行った上で、与信見直しを実施する必要があります。この場合、単に取引金額が増えたから与信枠を拡大するのではなく、なぜ取引が増加したのか、その背景にある取引先の事業状況を詳しく分析することが重要です。

取引増加の理由が取引先の事業拡大によるものであれば、財務状況も改善している可能性が高く、与信枠の拡大を検討できます。一方で、他の仕入先との取引が減少した結果として自社への発注が増えている場合は、取引先の資金繰り悪化のサインかもしれません。このような場合は、慎重な調査が必要です。

都度見直し②:支払遅延や信用力悪化が発生した場合

資金繰りの悪化などによって、取引先企業からの売掛金支払いが遅延した場合、信用が低下することになります。このようなときは、与信限度額の縮小を検討する必要があります。支払遅延は、取引先の財務状況悪化のもっとも明確なシグナルの一つです。一度でも遅延が発生した場合は、その原因を徹底的に調査し、一時的な問題なのか、構造的な問題なのかを見極める必要があります。

また、自社だけでなく、他社との取引で高額の焦げ付きが起こっていたり、支払い遅延などが発生していたりする取引先企業は、大きく信用力が低下しています。この場合は、自社取引にも影響を及ぼす可能性が高いため、与信見直しを行います。与信管理で重要なポイントは、こうした事象が発生した際に、きちんと与信管理担当者へ情報が入ってくる体制を構築しておくことです。正確な情報のタイムリーな入手・把握が、与信見直しの第一歩と言えるでしょう。

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財務状況の変化を正確に捉える調査手法

与信限度額の見直しを適切に行うためには、取引先の財務状況の変化を正確に捉える必要があります。

 

定性情報と定量情報の両面から分析する

与信見直しの際に確認する項目は、取引開始時の与信審査と基本的には同様です。加えて、取引状況の変化にも目を向ける必要があります。取引実績の中で、決済条件・取引条件が遵守できているかについては確認が必要です。取引開始時に比べて取引額や取引量に変化がないかを確認し、慎重に判断をしましょう。また、取引先企業の財務状況に変化がないかについても調査を進める必要があります。

定性情報の収集では、数値に表れない情報の調査も重要です。取引先へ訪問した際の雰囲気、社内の様子、以前と比較して変化があるかといった点も重要なポイントとなります。経営者の影響力やビジネス能力、性格・資質、同業者からの評判など、信用力を判断する目安となる情報を細かく集めましょう。ただし、これらの数値化できない定性的な情報には、不確実な情報や主観による判断も含まれることがあります。そのため、定性情報のみで判断せず、数値による定量情報と合わせて分析することが大切です。

見直し時の重要チェックポイント

与信限度額の見直しを行う際には、以下の項目を重点的にチェックする必要があります。決済条件や取引条件は守られているか、取得している担保の価値が変化していないか、担保維持に必要な書類を入手できているか、基本契約は締結できているか、注文書・納品書など取引を証明する書類はきちんと作成されているか、といった点です。

これらのチェックポイントは、取引の健全性を示す重要な指標となります。たとえば、これまで問題なく守られていた決済条件が守られなくなった場合、それは取引先の資金繰りに問題が生じている可能性を示唆しています。また、担保価値の変動も見逃せません。不動産を担保としている場合、地価の変動により担保価値が大きく変わることがあります。定期的に担保価値を再評価し、必要に応じて追加担保を求めるなどの対応が必要です。

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与信限度額の増減を判断する具体的基準

与信限度額を増額すべきか、減額すべきか、それとも現状維持すべきか。この判断は、企業の収益機会とリスク管理のバランスを左右する重要な意思決定です。

増額を検討すべきケース

取引先の財務状況が改善し、信用度が向上している場合は、与信限度額の増額を検討する好機です。具体的には、売上高の増加、利益率の改善、自己資本比率の向上、キャッシュフローの改善などが確認できる場合です。また、取引先が新規事業の立ち上げや市場拡大に成功し、将来的な成長が見込める場合も、与信枠の拡大を前向きに検討できます。

ただし、増額の判断には慎重さも必要です。一時的な業績向上ではなく、持続的な成長が見込めるかどうかを見極める必要があります。業界全体の動向、競合他社との比較、経営陣の能力なども総合的に評価し、増額のリスクとリターンを慎重に検討しましょう。増額する場合でも、段階的に枠を拡大し、各段階で取引状況をモニタリングするアプローチが推奨されます。

減額または取引停止を検討すべきケース

一方、減額や取引停止を検討すべきケースもあります。支払遅延が発生した場合、他社との取引で焦げ付きが発生した場合、財務諸表の内容が悪化した場合、業界全体の不況により取引先の事業環境が悪化した場合などです。特に、複数の兆候が同時に現れた場合は、速やかに与信限度額の縮小または取引停止を検討する必要があります。

減額の判断は、取引先との関係悪化を招く可能性もあるため、慎重なコミュニケーションが求められます。減額の理由を明確に説明し、取引先の理解を得ることが重要です。場合によっては、担保の追加や保証人の設定などの条件変更により、取引を継続できる可能性もあります。ただし、明らかに経営状況が悪化している場合は、関係性よりも自社の財務健全性を優先し、迅速な判断を下すことが求められます。

 

現状維持が適切なケース


すべての見直しが増額や減額につながるわけではありません。取引先の財務状況が安定しており、取引条件も遵守されている場合は、現状維持がもっとも適切な判断となります。無理に与信枠を拡大する必要もなく、過度に保守的になる必要もありません。定期的な見直しを継続し、変化の兆候を早期に捉えられる体制を維持することが重要です。

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定期的なモニタリング体制の構築方法

与信管理の専門部署または担当者の設置

与信管理を効果的に行うためには、専門の部署または担当者を設置することが推奨されます。営業部門が与信管理も兼務する体制では、売上拡大の圧力により、リスク評価が甘くなる傾向があります。独立した与信管理部門を設置することで、客観的な視点からリスク評価を行い、適切な与信限度額の設定と見直しが可能になります。

与信管理担当者には、財務諸表の読解能力、業界知識、リスク評価能力などが求められます。また、営業部門や経理部門との円滑なコミュニケーション能力も重要です。与信管理担当者は、取引先の異変をいち早く察知し、適切な対応を提案する役割を担います。定期的な研修や外部セミナーへの参加を通じて、与信管理のスキルを継続的に向上させることも重要です。

社内格付け制度の整備と運用

取引先を信用度に応じて格付けする制度を整備することで、与信限度額の設定と見直しを体系的に行えます。格付けの基準は企業によって異なりますが、一般的には取引先の支払い能力で判断されます。たとえば、A(非常に優良)、B(優良)、C(通常)、D(やや注意)、E(注意)、F(要警戒)、G(格付け対象外)といった区分が考えられます。

各格付けに対して、それぞれ割合を決めておき、与信限度額を設定する際に用います。格付けが高い取引先には高い与信限度額を設定し、格付けが低い取引先には低い与信限度額を設定します。格付けは定期的に見直し、取引先の状況変化に応じて適宜変更します。この制度により、与信管理の属人化を防ぎ、組織全体で一貫した基準による管理が可能になります。

 

与信限度額の有効期限設定と更新プロセス

与信限度額には有効期限を設定し、期限到来時には必ず見直しを行う仕組みを構築しましょう。有効期限は、取引先の決算期末から6カ月以内に設定することが適切です。期限が近づいたら、自動的にアラートが発生し、見直し作業が開始されるシステムを導入すると、見直し漏れを防ぐことができます。

更新プロセスでは、最新の財務諸表の入手、定性情報の収集、取引状況の確認、格付けの再評価、与信限度額の再設定といったステップを体系的に実施します。このプロセスを標準化し、チェックリストを活用することで、見直しの質を一定に保つことができます。また、見直しの結果と判断理由を記録として残すことで、将来の見直しの際の参考資料とすることができます。

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与信限度額超過時の対応フロー

与信限度額を設定しても、実際の取引で超過する事態は発生します。その際の対応フローを事前に定めておくことが重要です。

超過が判明した時点での即座の対応

与信限度額の超過が判明した時点で、まず取引の一時停止を検討します。超過の原因が単純な事務ミスなのか、意図的な超過なのか、取引先の急激な発注増加なのかを速やかに確認します。原因によって対応は異なりますが、いずれの場合も、与信管理担当者と営業担当者が連携し、迅速に状況を把握することが重要です。

超過額が小さく、取引先の信用状況に問題がない場合は、一時的な超過として承認することも可能です。ただし、この場合でも、超過を承認した理由と期限を明確に記録し、期限内に与信限度額内に戻すための計画を立てる必要があります。超過が常態化しないよう、厳格な管理が求められます。

業績や社内状況に問題がない場合の増額検討

取引先の業績や社内の状況に問題がなく、事業拡大による正当な取引増加である場合は、与信限度額の増額を検討します。この場合、通常の与信見直しプロセスを経て、財務状況の再評価、格付けの見直し、新たな与信限度額の設定を行います。増額の判断には、取引先の将来性、業界動向、自社のリスク許容度などを総合的に考慮します。

業績や社内状況に問題がある場合の取引制限

一方、取引先の業績や社内状況に問題がある場合は、与信限度額の縮小または取引停止を検討します。支払遅延の兆候がある場合、他社との取引で問題が発生している場合、財務状況が悪化している場合などは、速やかに与信限度額を縮小し、場合によっては新規取引を停止します。既存の債権についても、早期回収を図るための対策を講じる必要があります。


取引制限の決定は、取引先との関係悪化を招く可能性があるため、慎重なコミュニケーションが求められます。しかし、自社の財務健全性を守ることが最優先です。明確な基準に基づいた判断を行い、その理由を取引先に説明することで、理解を得る努力をしましょう。

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与信管理を効率化するツールとサービスの活用

与信限度額の見直しを効率的に行うためには、適切なツールやサービスの活用が有効です。

与信管理ツールの導入


与信管理を体系的に行うためには、専用の与信管理ツールの導入も検討に値します。与信管理ツールを導入することで、取引先ごとの与信限度額の設定、企業情報やスコアのモニタリングなどを自動化できます。これにより、人的ミスを減らし、見直し漏れを防ぐことができます。

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まとめ

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まとめ:与信限度額の見直しで企業の持続的成長を実現する

与信限度額の見直しは、企業のリスク管理と成長戦略の両面で重要な役割を果たします。定期的な見直しと都度見直しを組み合わせることで、取引先の状況変化に柔軟に対応し、適切な与信管理を実現できます。財務状況の変化を定性・定量の両面から正確に捉え、明確な基準に基づいて増減額を判断することが、健全な取引関係の維持につながります。

与信管理の専門部署の設置、社内格付け制度の整備、与信限度額の有効期限設定など、体系的なモニタリング体制を構築することで、見直しの質と効率を高めることができます。また、企業信用情報データベースや与信管理ツールなどのツールを活用することで、より迅速かつ正確な与信判断が可能になります。

与信限度額の見直しは、単なるリスク回避の手段ではありません。取引先の成長に合わせて与信枠を適切に拡大することで、ビジネスチャンスを最大化し、企業の持続的成長を支える戦略的な活動です。本記事で紹介した手法を参考に、自社に最適な与信限度額の見直しプロセスを確立し、安定した経営基盤の構築を目指してください。