規制コンプライアンスの中核:AML<前編>-AMLとは何か?

ビジネスの現場で語られるコンプライアンスの中でも、社会の治安や金融システムの信頼性に最も直結する領域がAML(Anti-Money Laundering:マネーローンダリング対策)です。

「マネロン」と聞くと、映画の闇組織や、どこか遠い国の出来事を思い浮かべるかもしれません。でも、現実のマネロンはもっと静かで、もっと身近で、そして思っている以上に、私たちの生活と“地続き”の場所でおきています。

今回は近年のアジアにおけるAML情勢をふまえ、「実例としてどのようなことが起こったのか」を共有させていただきます。

 

1.マネロンはこうして動く

不法に入手した資金を合法的なものに見せかける。という流れをマネーローンダリングといいます。実際には各段階が重なったり、順序が前後するケースも多くありますが、マネーローンダリングは一般に、以下の3段階で行われます。

Placement(まず入れる)

Layering(重ねて移転)

Integration(戻す)

では、実際にどのような形でマネーローンダリング対策が行われているのかを、海外の詐欺事情を一例として辿ってまいりましょう。

 

2.海外詐欺の“川上”では何が起きているのか

近年、日本人が被害に遭う詐欺の裏側では、カンボジアやミャンマーなどの拠点で日本語を話す若者たちが詐欺の“かけ子”として働かされているといわれています。

「高給の海外短期アルバイト ホワイト案件 渡航代負担」

「年齢不問。未経験でもしっかり稼げる」

「衣食住付きの環境で、リゾート感覚でお仕事」

等と誘われ、生活が苦しい背景からタイなどへ渡航。ところが現地ではスマホを取り上げられ、国境をまたいで移動し、逃亡を防ぐために寮から出られず、詐欺行為をこばめば暴行・脅迫・人身売買に直面しているとのことです。

“だます側”もまた、搾取される側に立たされている。この悲惨な構造が、国境を越えた詐欺の現場にあると言われています。

 

3.”豚の屠殺詐欺”というスキーム

こうした国際詐欺にはいつしか特徴的な名前がつけられました。

殺猪盤/豚の屠殺詐欺/Pig Butchering

この名前は

・時間をかけて信頼関係を“太らせて”

・最後に投資話や暗号資産で“すべてを刈り取る”

・詐欺の実行側も被害者であり”搾取対象に含む”

という残酷な構造から名づけられました。とくに”外国人”をターゲットにする場合、殺羊盤とも呼ばれます。殺羊盤はアジア圏では広く使われるスラングであり、”外国人を狙う”という意味等が込められています。これは羊と洋の発音が同じであり、”外国人だけ”を相手にすることで、罪の意識から逃れやすいためと言われています。

詐欺が“表の商売”のように産業化している現実が、その名前からも読み取れます。

 

4.アジアを巡る国際的な動き

これらは被害者への配慮のために、「ロマンス詐欺」と言い換えられることも多い詐欺スキームです。かつては「ナイジェリア詐欺」とも言われ、日本でもよく知られていました。しかし近年の舞台はアジアです。

そして、こうした詐欺スキームの実行や資金移転、回収の“資金の回収ルート”として注目されている先が、カンボジア周辺です。なお、こうした詐欺・人身売買ネットワークはカンボジアで完結しているわけではなく、タイ国境沿いのミャンマー拠点(いわゆる“KKパーク/KK園区”や”シュエコッコ/Shwe Kokko”)などとも深く結びつき、国境を跨いで相互に資金・人員・技術を融通し合う構造が国際当局により指摘されています。

 

5.マネーロンダリング関連の制裁実例

2025年、米国のFinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)はカンボジア拠点の決済網Huione Group“重大なマネーロンダリング懸念の拠点(Primary Money Laundering Concern)”に指定しました。

https://www.fincen.gov/news/news-releases/fincen-issues-final-rule-severing-huione-group-us-financial-system

・豚の屠殺詐欺などの詐欺スキーム

・サイバー詐欺

・北朝鮮関与を含む不正資金フロー

などのネットワークにおいて、Huione Groupが不正収益の移動に利用されたとFinCENは指摘しています。さらに同じ時期に、米国のOFAC(米国財務省外国資産管理室)はカンボジアのPrince Groupに対して、TCO(Transnational Criminal Organizations/国境を越えた犯罪組織)と指定し、資産凍結などの制裁措置を発表しました。

https://home.treasury.gov/news/press-releases/sb0278

Prince Groupは不動産、金融から慈善事業まで広範に根を張る複合体であり、傘下のPrince Bankは、カンボジアでは大きな銀行として知られていたため、現地では取り付け騒ぎにまで発展する事態となっています。

英国財務省の金融制裁執行局(OFSI)もPRINCE GLOBAL GROUP LIMITED (“PRINCE GROUP”)等に対する制裁措置を発表し、米英当局が協調して同組織を国際金融網から切り離す動きが強まりました。

https://sanctionssearchapp.ofsi.hmtreasury.gov.uk/suspect/17156

これは違法性の断定ではなく、“海外当局が強い対応を示した事実”に過ぎません。ただし、これらはアジアに対して包括的な制裁が行われた象徴的な出来事といえます。

フィンテックや資金移動サービスが、マネーローンダリングに加担していると当局から指定された実例として、日本にとっても無関係ではありません。そして、一説には”まだ制裁対象は名前を変えて動いている”という話も聞かれています。

 

6.AMLを知るとニュースの流れが深くわかるようになる

Placementだまし取ったお金を口座や決済サービスに流しこむ。

Layering暗号資産や海外送金を併用し、資金の出どころを隠す。

Integration合法資金のように見せかけ、生活資金や不動産、別事業に取り込む。

これらを踏まえ、殺猪盤 → 決済網 → 暗号資産等→ 現金化。

さらには、SNSを通じてその現金や車、不動産や宝石等を見せびらかすことで新たな罠をはる…

ニュースの点と点が、線としてつながると、規制コンプライアンスの中核”マネーローンダリング対策”の重要性が見えてきます。

 

次回予告

次回は「規制コンプライアンスの中核:AML後編」として、AMLの現状と、DNFBPsという枠組みについて紐解いてまいります。

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