昨今、ニュースやビジネスの現場で頻繁に耳にする「コンプライアンス」。しかしその言葉が示す範囲や本質を、明確に説明できる人は意外と多くありません。
「反社チェック」を思い浮かべる方もいれば、「企業や著名人の不祥事」を連想する方もいるでしょう。結果として、「コンプライアンスは絶対に必要だ」とする立場と、「そこまで過敏になる必要はない」とする立場がすれ違い、議論がかみ合わない場面も少なくありません。
実は、コンプライアンスには法律上の統一された定義が存在しません。しかし、企業活動において軽視できない領域であることは間違いありません。本稿では、便宜的にコンプライアンスを三つの層に整理し、とくに見落とされがちなリスクに焦点を当てて考えます。
1. 広義のコンプライアンス ― 倫理・社会的責任
コンプライアンスの最も広い層には、企業倫理やCSR、ESG対応、ハラスメント防止といった「社会的信頼を維持するための行動規範」が含まれます。法的な罰則がないからといって軽視すると、ブランドの毀損や取引停止といった深刻な影響を受けることもあります。
たとえば、ある飲食店では従業員の軽率なSNS投稿が原因で不買運動に発展し、法令違反ではないにもかかわらず企業の存続を揺るがす事態となりました。
また、この分野では社会運動を名目に過剰な攻勢をかける「ゴロ」的存在も見受けられるため、真偽の見極めが重要です。
2. 狭義のコンプライアンス ― 社内ルール・業務規範の遵守
次の層は、組織が自ら定めた業務ルールや社内規程の遵守です。ここでは法的罰則こそありませんが、逸脱は懲戒処分、士気低下、顧客離れなど、企業文化に深刻なダメージを与えるおそれがあります。
例として、あるIT企業の営業担当が社内規程を軽視して顧客データを持ち出した結果、情報流出が発生し懲戒処分に至ったケースがあります。自社の信頼を守るためにも、「ルールを形骸化させない仕組みづくり」が求められます。
3. 規制コンプライアンス ― 法令遵守の核心
最も厳格な層が「規制コンプライアンス」です。ここでは「守らなければ処罰される」法令遵守が問われます。犯罪収益移転防止法、外為法、暴力団排除条例などが代表例で、違反すれば行政処分や高額な罰金、さらには刑事罰を受けることもあります。
実際、ある企業が大量破壊兵器関連物資に転用可能な製品を輸出したことで、法人に数千万円の罰金、個人に懲役刑が科された事例があります。さらに社名公開により、社会的信用も大きく損なわれました。
英語圏でも Regulatory Compliance という概念が確立しており、国際取引の文脈では「知らなかった」では済まされない領域です。
4. 中小企業に潜む落とし穴
「コンプライアンスは大企業の課題だ」と考える中小企業は少なくありません。しかし、金融庁や経済産業省、警察庁はいずれも、AML/CFT(マネロン・テロ資金対策)や輸出管理は企業規模を問わず求められると警鐘を鳴らしています。
実際の摘発事例は枚挙にいとまがなく、「自社は小さいから対象外」という思い込みこそが最大のリスクです。規模の大小ではなく、「どのような取引を行っているか」によって法的リスクは等しく発生します。
まとめ
コンプライアンスは、
広義:倫理・社会的責任
狭義:社内ルール遵守
規制:法令遵守
この三層で整理すると理解しやすくなります。
とくに規制コンプライアンスは「無知は免罪にならない」領域であり、企業規模を問わず対応が求められます。自社を「例外」とせず、主体的にリスクを点検・対策することが、持続的な信頼と成長の第一歩となるでしょう。
次号では、本稿で触れた「規制コンプライアンスとは ― 知らなかったでは済まされない領域」をテーマに、より具体的な事例とともに掘り下げます。
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