前回の記事(規制コンプライアンス【前編】)では、もっとも厳格であり、「知らなかった」では済まされない領域――それが規制コンプライアンス(Regulatory Compliance)であることをお伝えしました。
今回はその後編として、「規制を無視するとどうなるのか」という現実を具体的に見ていきましょう。
1.規制コンプライアンスを無視するとどうなる
結論から言えば、無視すれば自社の存続を揺るがしかねないリスクがあります。
その背景には、政治・経済の急激な変化にともない、企業に求められる法令遵守の水準がこれまでにないほど高まっている現状があります。
ここでは、その代表的な影響を紹介します。
罰金・懲役
外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の刑罰は、極めて厳しい内容で知られています。
法人には「罰金最大10億円または輸出額の5倍以下のいずれか高い方」、個人には「罰金最大3,000万円または輸出額の5倍以下のいずれか高い方」に加え、懲役刑(最長10年)が科される可能性があります。
さらに、輸出禁止措置や社名公表といった行政処分が下されることもあります。
取引停止・契約解除
暴力団排除条例などの規定により、取引先が制裁対象や反社会的勢力と関係していると判明した場合、国内外を問わず、契約が即時に解除されるおそれがあります。
銀行送金のストップ
取引相手の信用を確認していないまま米ドル決済を経由すると、米財務省外国資産管理室(OFAC)の規制に抵触する可能性があります。
その結果、送金の差し戻しや口座凍結といった事態に発展することも、決して珍しくありません。
信用・評判の毀損
「制裁対象と取引していた」と報道されれば、投資家や顧客の信頼は一瞬で失われます。インターネット上には情報が半永久的に残り、金銭的損失以上に大きな痛手となるでしょう。
国際的なブラックリスト化
一度「要注意企業」と認定されると、海外銀行や企業のKYC(顧客確認)審査で繰り返し引っかかり、事業の継続が難しくなることもあります。
2.規制コンプライアンスの網はすぐそばにある
いまや「自国のルールだけ守れば安全」という時代は終わりました。
とくに注意すべきは、米国による国際取引監視の厳格さです。
米国企業と直接取引していなくても、米国製のサービスを利用したり、米ドル決済や米国金融機関を経由するだけで、OFAC規制の対象となる可能性があります。
さらに、OFACは自国の犯罪組織にとどまらず、国境を越えて活動する「Significant Transnational Criminal Organizations(TCO)」という枠組みを設け、日本の反社会的勢力(いわゆるヤクザ)関係者や関連企業を金融制裁の対象に指定するケースも存在します。
また、日本の警察庁犯罪収益対策室(JAFIC)をはじめ、各国の金融情報機関(FIU)は国際組織「エグモント・グループ(Egmont Group)」を通じて緊密に連携しています。
エグモント・グループは、世界各国のFIUが加盟する国際ネットワークであり、マネーロンダリングやテロ資金供与に関する情報を安全かつ迅速に共有する仕組みを担っています。
つまり、日本の企業活動もすでに国際的な監視ネットワークの一部として、常に分析の対象になっているのです。
規制当局が不正や犯罪資金の流れを監視しているからこそ、私たちは安心してビジネスを展開できます。
規制コンプライアンスとは、ビジネスの自由を守るための「ガードレール」と言えるでしょう。
まとめ
最近、世の中の空気が変わってきたと感じませんか。
かつては近道だった道も、いまはそうとは限りません。
気づいたら逆走していた――そんな事態だけは避けたいものです。
次号予告
次回は「海外で実際に起きた制裁事例」をテーマに、「自社は関係ない」と思い込むことこそが最大のリスクである理由を、分かりやすく解説します。