地政学リスクと制裁対応の最新視点

海外ビジネスの現場では、日々新たなリスクが顕在化しています。
市場拡大のチャンスを取り込みつつ、信用リスクをいかに制御するか――。
与信管理部門は今や、単なる審査機能を超え、企業全体のリスク戦略を担う存在となっています。

本メールマガジンでは、
企業の与信管理を支える実務者の皆さまに向け、最新の視点や事例をお届けします。
現場の判断に役立つインサイトを、毎号テーマごとに深掘りしてまいります。

地政学リスクが与信管理に与えるインパクト

近年、海外取引においてもっとも大きな不確実要因の一つとなっているのが「地政学リスク」です。

ロシアによるウクライナ侵攻、米中対立の激化、中東情勢の緊張など、国家間の対立は経済活動へ直接的な影響を及ぼし、企業の与信管理にも新しい視点を求めています。

本稿では、地政学リスクが海外与信に与えるインパクトを整理し、今後の実務におけるヒントを考えます。

 

1. 制裁リスクと与信判断の複雑化

経済制裁の影響は、与信管理において極めて直接的です。ロシア関連の制裁では、銀行取引の停止や特定企業との取引禁止が突如として発動され、多くの企業が既存の与信枠を見直さざるを得ませんでした。

従来の財務諸表分析だけでは把握できない「制裁対象との関係性」がリスク要因となり、KYC(顧客確認)や最終受益者(UBO)の特定が与信管理に不可欠な要素となっています。

 

2. サプライチェーンを揺るがす地域紛争

地政学リスクは、直接の取引先のみならず、サプライチェーン全体に波及します。たとえば中東情勢の不安定化による海上輸送の混乱は、調達先企業のキャッシュフローに影響し、結果的に与信リスクの高まりにつながります。


一次取引先だけでなく、その背後にある二次・三次の供給網まで目を配ることが、今後ますます重要になるでしょう。

 

3. 国別リスク評価の再考

従来、国別リスクは主に「マクロ経済指標」や「格付け機関のレポート」に依存してきました。

しかし、近年は政治的要因が突発的にビジネス環境を変化させるケースが目立ちます。

財政赤字や為替変動だけでなく、「政権交代による政策の急変」や「外交関係の悪化」による輸出規制など、従来のフレームワークでは捉えきれない要素が増えています。

与信判断にあたっては、財務分析とあわせて「政治リスクのモニタリング」を組み込むことが不可欠です。

 

4. リスクに備えるために実務で意識すべきポイント

地政学リスクに対応するためには、以下のような取り組みが考えられます。

  • データソースの多様化:財務情報に加え、制裁リスト、政治ニュース、国際機関のレポートなどを組み合わせる。

  • 動的な与信枠管理:年に一度の与信設定ではなく、リスクイベント発生時に即時見直しを可能にする仕組みづくり。

  • シナリオプランニング:地政学リスクが顕在化した場合の影響度をあらかじめ想定し、代替調達ルートや保険の活用を検討する。

     

5. おわりに

海外与信管理の現場は、もはや「財務データの分析」だけでは十分とは言えません。

国家間の緊張や制裁リスクといった要素を取り込んだ総合的なリスク評価が求められる時代に入っています。与信管理部門が担う役割は拡大しており、経営層に対しても「単なる取引可否」以上の戦略的示唆を提供することが期待されています。

当社では、各国の政治・経済動向を反映した海外企業データベースを提供し、お客様の与信判断を多面的にサポートしています。地政学リスクを踏まえた新たな管理体制づくりについて、ご相談いただければ幸いです。

 

まとめ

  • 制裁リスクは財務諸表分析では把握できない新たなリスク要因

  • サプライチェーン途絶など間接的影響も無視できない

  • 国別リスク評価は従来指標に加え、政治要因のモニタリングが不可欠

 

次号は「グローバルサプライチェーンと与信リスク」をテーマにお届けします。

一次取引先だけでは捉えきれない、供給網全体に潜む信用リスクをどう管理するか――。事例を交えながら実務上の視点を解説します。

 

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