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アイルランド進出で知っておきたい商習慣・経済情報

アイルランドは、英語圏でありながらEUに加盟している数少ない国として、欧州進出のハブとして注目されています。特に法人税率12.5%という低水準と、外資に寛容な制度設計が、多国籍企業の拠点誘致を後押ししています。

街中にはギネスビール発祥の地らしいパブ文化が根付いており、パブは地域住民の憩いの場であると同時に、ビジネス交流の一環としても活用される重要な空間です。

一見すると、福祉先進国の北欧やドイツ・フランスに比べて地味な印象を持たれがちなアイルランドですが、実は世界有数のIT・製薬拠点。GoogleやApple、Pfizer、Metaなどが欧州本社を構え、輸出主導型の強固な経済基盤を形成しています。

さらに、一人当たりの名目GDPは2022年時点で約11万ドル超と世界上位にランクイン。ただしこれは多国籍企業の利益計上の影響も大きく、実質的な生活水準を表すには補正指標(GNI*)も併せて参照されます。

Brexit以降、英語圏かつEU加盟国である強みを活かして、英国からの業務移転先としても存在感を高めており、欧州市場を見据える企業にとっては魅力的な進出先といえます。

本記事では、アイルランド進出を検討する企業や、すでにビジネスパートナーを持つ方に向けて、信頼できる統計と現地事情に基づく、最新の経済・商習慣情報をお届けします。

Chapter 1

基礎から学ぶアイルランドの経済情報

アイルランドの基礎情報

  • 公用語アイルランド語(ゲール語)および英語
  • 首都ダブリン (人口 約153 万人、2024 年 4月)
  • 人口約538 万人(2024 年 4 月)
  • 国土面積約7.3万km²(北海道より一回り小さい)
  • GDP(名目)約5,772億米ドル(2024年)
  • 1人あたりGDP(名目)約10 万 6,456 ドル(2024 年)
  • 通貨ユーロ(€)/EUR
  • 宗教約78%がカトリック教徒
  • 主要産業金融、製薬、IT、医療機器、食品・飲料
  • 祝日数(法定休日)年間10日

経済概況

アイルランドは、かつて農業が中心の国でしたが、1990年代以降に法人税率を12.5%まで引き下げ、EUの構造基金を活用した外資誘致政策を進めた結果、「ケルトの虎(Celtic Tiger)」と呼ばれる経済成長を遂げました。現在では製薬、IT、金融などを中心とした外資主導型の経済構造を持ち、グローバル企業の欧州拠点が集積しています。

2008年の世界金融危機では経済が大きく後退し、EU・IMFの支援を受けましたが、構造改革を経て回復。その後は堅調な成長を続け、輸出主導の経済として再び高い成長率を維持しています。

2023年は多国籍企業の一部業種の不振により実質GDPが▲5.5%となったものの、内需は堅調で個人消費が支えとなりました。2024年には医療用品や化学製品の輸出が好調で、実質GDP成長率は**+1.2%へ回復。2025年第1四半期も輸出増が続き、+3.2%**の成長を記録しました。
今後は労働市場の安定と製薬・デジタル分野の堅調な輸出により、**2025年は+3.4%、2026年は+2.5%**の成長が見込まれています。
ただし、米国との経済関係への依存度が高いため、保護主義的な政策動向には注意が必要です。

基礎的経済指標(2024年)

指標 数値 出所
名目GDP 5,772億ドル(5,334億ユーロ) IMF
1人あたり名目GDP 106,456ドル IMF
実質GDP成長率 +1.2% 欧州委員会経済予測
消費者物価上昇率 +1.3% EU統計局
失業率 4.3% EU統計局
財政収支(対GDP比) +4.3% 欧州委員会
政府債務残高(対GDP比) 40.9% EU統計局
外貨準備高 116億ドル IMF
為替レート(平均) 1ユーロ=1.0824ドル(163.85円) ECB

 

日本との貿易関係(2024年確報)

アイルランドは日本にとって医薬品・精密機器の重要な供給国です。
2024年の日本の対アイルランド貿易は、輸出15.3億ドル/輸入59.4億ドルで、アイルランド側の黒字が継続しています。
日本からの輸出は一般機械や輸送用機器が中心で、アイルランドからの輸入は医薬品と精密機器類が大部分を占めます。

主要品目構成(2024年)

  • 日本 → アイルランド:一般機械(20.5%)、輸送用機器(19.5%)、再輸出品(14.1%)、精密機器(12.9%)

  • アイルランド → 日本:医薬品(60.1%)、精密機器類(20.7%)、電気機器(6.5%)、化学品(3.5%)

また、アイルランドには日系企業120社が進出(2023年10月時点)しており、在留邦人数は3,126人(2024年10月時点)です。
日EU経済連携協定(EPA)の影響もあり、両国の貿易・投資関係は今後さらに拡大が見込まれます。

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信頼のポイントはアイコンタクト。アイルランド人との上手な付き合い方とは?

アイルランドのビジネスシーンでは、イギリスと同様に階級社会が根付いているため、特にオーナー企業である場合、担当者に決裁権のないことが多く、決裁者と直接話すことが最も重要だといわれています。

アイルランド人と信頼関係を築くためには、アイコンタクトが大切で、会話の中でしっかり目を合わす事が出来ない人物は信頼ができないと思う傾向にあるようです。

また、北アイルランドを巡っていまだイギリスとの間で対立を抱えているため、政治や宗教の話は避けたほうが無難です。天気やスポーツの話から少しづつ距離を縮め、信頼関係を築いていくことをオススメします。

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アイルランドの決算書提出率は高いが、日付には要注意!

アイルランドでは、会社法により全ての企業に決算書を提出する義務が定められています。しかし、一定の規模以下の企業(貸借対照表の合計が約9億5,000万円以下、売上高約19億以下、従業員250人以下のうち2つ以上当てはまる場合)については提出が免除されます。また、Private companyの場合も提出が免除されています。

決算書を提出しない場合の罰金が明確に定められているため、提出率は高くなっています。

アイルランドの決算書提出期限は変則的で、前回決算書を提出した日から、21か月以内に新しい決算書を提出する必要があります。

どんなに遅くとも、決算から約22ヶ月後に決算書が入手可能ということになりますが、一般的には決算期から半年以内に入手できることが多いようです。

クレディセイフでは、現地の官報やアイルランド企業登記局(Companies Registration Office)を初めとした様々な公的機関から情報を入手し、オンラインレポートを毎日更新しています。

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アイルランド企業の売上高トップ10

法人税率が依然として低水準(12.5%)にあるアイルランドでは、実際の本社機能を他国に置いたまま、登記上の本社のみアイルランドに移す企業が数多くあります。法人税優遇策を活用して欧州拠点を設ける戦略が目立ちます。

また、かつて製薬企業であったシャイヤー(Shire)は、日本の 武田薬品工業 による買収を経て、国際的な再編を経験しました。こうした巨額のグローバルM&Aにより、買収企業側では一刻も早くシナジーを創出し、財務内容を改善することが経営課題となっています。み出し、財務内容を改善できるかが今後の鍵となりそうです。

※2025年時点、日本円は1ドル=150円換算

 

1位 CRH plc(建設資材)

  • 売上高:€32,000M(約4.8兆円)※2024年決算

  • CEO:Albert Manifold

  • Industry:Building Materials

  • HQ Location:Dublin, Ireland

  • Websitehttps://www.crh.com

  • Employees:77,400人(世界3,200拠点以上)

2位 Medtronic plc(医療機器)

  • 売上高:$31,227M(約4.7兆円)※FY2023(公式年次報告)

  • CEO:Geoff Martha

  • Industry:Medical Devices

  • HQ Location:Dublin, Ireland(法的本社)

  • Websitehttps://www.medtronic.com

  • Employees:95,000人以上

3位 Accenture plc(ITコンサル)

  • 売上高:$64,112M(約9.7兆円)※FY2023

  • CEO:Julie Sweet

  • Industry:Professional Services / Consulting

  • HQ Location:Dublin, Ireland(法的本社)

  • Websitehttps://www.accenture.com

  • Employees:743,000人(世界120カ国以上)

4位 Johnson Controls International(ビル設備)

  • 売上高:$26,795M(約4.1兆円)※2023年決算

  • CEO:George Oliver

  • Industry:Building Solutions, HVAC

  • HQ Location:Cork, Ireland

  • Websitehttps://www.johnsoncontrols.com

  • Employees:約100,000人

5位 Smurfit Kappa Group(包装・紙製品)

  • 売上高:€11,289M(約1.7兆円)※2023年

  • CEO:Tony Smurfit

  • Industry:Packaging / Paper

  • HQ Location:Dublin, Ireland

  • Websitehttps://www.smurfitkappa.com

  • Employees:約47,000人

6位 Ryanair Holdings plc(航空)

  • 売上高:€10,780M(約1.6兆円)※FY2023

  • CEO:Michael O’Leary

  • Industry:Low-cost Airline

  • HQ Location:Dublin, Ireland

  • Websitehttps://www.ryanair.com

  • Employees:約20,000人

7位 Kerry Group plc(食品・飲料)

  • 売上高:€8,000M(約1.2兆円)※2023年

  • CEO:Edmond Scanlon

  • Industry:Food Ingredients & Flavour

  • HQ Location:Tralee, County Kerry

  • Websitehttps://www.kerrygroup.com

  • Employees:約22,000人

8位 Glanbia plc(栄養食品・乳製品)

  • 売上高:€5,636M(約8,460億円)※2023年

  • CEO:Siobhán Talbot

  • Industry:Nutrition / Dairy

  • HQ Location:Kilkenny, Ireland

  • Websitehttps://www.glanbia.com

  • Employees:約7,600人

9位 Kingspan Group plc(建材・断熱材)

  • 売上高:€6,977M(約1兆500億円)※2023年

  • CEO:Gene Murtagh

  • Industry:Building Materials / Insulation

  • HQ Location:Kingscourt, County Cavan

  • Websitehttps://www.kingspan.com

  • Employees:約22,000人

10位 Bank of Ireland Group(銀行・金融)

  • 売上高:€4,245M(約6,360億円)※2023年

  • CEO:Myles O’Grady

  • Industry:Banking / Financial Services

  • HQ Location:Dublin, Ireland

  • Websitehttps://www.bankofireland.com

  • Employees:約9,400人